Canon 400mm F4 テレマクロの特許 [光学技術・レンズ設計]
キヤノンが400mm F4、800mm F5.6、600mm F4 テレマクロの特許を出願中です。 回折光学素子(以下、DOE)を使った超望遠レンズにおいて、マクロレンズでよく使われる2群IFを採用することで、近距離での高性能化を図ったレンズです。
前回の記事は全く反応が無いと踏んでいたのですが、物凄い反響で有難うございました。

patent: Canon 800mm f/5.6 DO Macro 1:1

patent: Canon 400mm f/4 DO Macro 2:1

patent: Canon 600mm f/4 DO Macro 1:1

patent: Canon 400mm f/4 DO Macro 1:1.4
特許文献、及び要約・自己解釈
- 特許公開番号 2012-242742
- 公開日 2012.12.10
- 出願日 2011.5.23
- 実施例1
- 焦点距離 f=788.34mm
- Fno.=5.80
- 画角 2ω=3.14°
- 像高 21.64mm
- レンズ全長 486.00mm
- BF 110.67mm
- β=-1.02
- 正負正負の4群構成 (第2、3群がフォーカス用)
- レンズ構成 12群17枚(最も像側の1枚は保護ガラス等)
- 最大有効径 135.92mm
- 非球面 2面2枚
- DOE 1面
- 蛍石 1枚
- スーパーUDガラス 3枚
- 低分散ガラス 1枚
- 実施例2
- 焦点距離 f=400.00mm
- Fno.=4.12
- 画角 2ω=6.20°
- 像高 21.64mm
- レンズ全長 300.00mm
- BF 55.00mm
- β=-2
- 正負負正の4群構成 (第2、4群がフォーカス用)
- レンズ構成 12群19枚(最も像側の1枚は保護ガラス等)
- 最大有効径 97.09mm
- 非球面 5面5枚
- DOE 1面
- 蛍石 2枚
- UDガラス 1枚
- 低分散ガラス 1枚
- 実施例6
- 焦点距離 f=585.00mm
- Fno.=4.12
- 画角 2ω=4.24°
- 像高 21.64mm
- レンズ全長 350.00mm
- BF 55.00mm
- β=-1
- 正負負正正正の6群構成 (第2、4、5群がフォーカス用)
- レンズ構成 13群22枚(最も像側の1枚は保護ガラス等)
- 最大有効径 142.00mm
- 非球面 4面4枚
- DOE 1面
- 蛍石 2枚
- UDガラス 1枚
- 実施例9
- 焦点距離 f=390.99mm
- Fno.=4.12
- 画角 2ω=6.34°
- 像高 21.64mm
- レンズ全長 256.40mm
- BF 62.35mm
- β=-0.7
- 正負負正の4群構成 (第2、4群がフォーカス用)
- レンズ構成 12群16枚(最も像側の1枚は保護ガラス等)
- 最大有効径 94.90mm
- 非球面 4面4枚
- DOE 1面
- UDガラス 2枚
- 低分散ガラス 2枚
- インナーフォーカス式
- 最短撮影距離を短くし易い
- AFが高速
- 収差変動が多い
- 近距離で収差が多く発生
- 高性能なインナーフォーカス式
- 2つ以上のフォーカス群を備える
- 但しパラメータの最適化は必須
- 0.5倍以上のマクロ域では収差補正が困難
- 回折光学素子
- 全長の短縮が可能
- レンズ群の間隔が狭くなり、フォーカス群の移動範囲が制限される
- キヤノンの特許
- 正負の前群と後群
- インナーフォーカス(第2群と、後群の内どれか)
- フォーカス群を複数とすることで、敏感度、移動量の分担を行う
- 短い移動距離で、近距離に合焦させる
レンズ設計に正解は存在しない
性能とAF速度は両立し得ないものです。 全体繰り出しは性能を出し易いですが、AFや大口径レンズには向きません。 IFは高速なAFに向いていますが、収差の補正は難しいようです。 幾つかのマクロレンズはIFながら収差の補正を最適化していますが、フォーカス群が多くなってしまい、IFながらAFが遅いですね。 フォーカス群が重いと消費電力が悪化しますし、敏感度を上げると収差変動や誤差の影響が大きくなってしまうので、正解なんて無いんです。
どのメーカーもバランスの良い落とし所を見付けているのでしょう。
フォーカス群の多いマクロレンズ
マクロに限った話ではなく、また全てのマクロに当てはまるわけでもありませんが、最近はフォーカス群を複数備えたIF式の中望遠マクロが多い気がします。 当Blogで取り上げたレンズとしては、 製品化済みで ペンタックス90mm F2.8マクロや オリンパス60mm F2.8マクロ等、 製品化はされていないものとして ニコン37mm F2.4マイクロや キヤノン180mm F3.5マクロ 等があります。 前世代は繰り出し式が多いように思いましたが、このIF式が現世代におけるバランスの良い落とし所なのでしょう。
キヤノンの特許
キヤノンの特許は超望遠レンズでこの2群IF式を採用し、AF速度と近距離性能のバランスを図ったものです(実施例6は3群IF)。 近距離で、と言うと語弊があって、超望遠レンズで使用頻度の高い距離においても効果はあるでしょう。
欠点としてAF速度や消費電力が懸念されますが、移動量の分担を行うので、単純に考えてAF速度は2倍、消費電力は1倍でしょうか。
実際に起こり得る欠点は価格と重量でしょう。 本来なら1群で済むフォーカス群を、性能向上の為に2群動かすので、おそらく超音波モータが2つ必要になって、価格や重量に直結します。 超音波モータは1つでも実現出来ないことはないですが、遠方にあるフォーカス群動かすので効率が悪く、ニコンのAF-I以前のサンニッパ(AiAF Nikkor ED300mm F2.8S)のようなAF性能になってしまうかもしれません。 この反省からニコンは高級レンズではレンズ内モータを採用するようになりましたね。
コストと言えば、以前も特許出願のあったフロントエレメントの非球面が大問題で、現実的な価格で製造可能かどうかが鍵です。 いずれにせよ防振についての記述がありませんから、現実的な製品化はこの特許の構成にISユニットを足して、更に非球面を抜いたものが良いと思います。 レンズのモデルチェンジによって値上げした例をよく見掛けますが、モータ複数搭載や巨大な非球面を使ったわけではないにせよ、何らかの工夫を行っているのでしょう。
マクロとDOEは相性が悪い
| レンズ | 製品全長[mm] |
|---|---|
| EF400mm F4 DO IS USM | 232.7 |
| 実施例2 400mm F4 MAG.=2x | 256.00 |
| 実施例9 400mm F4 MAG.=0.7x | 212.40 |
マクロレンズの全長が長い理由は、収差補正用レンズを沢山入れる必要があるのと、フォーカスの移動量を稼ぐ為です。 従って全長の短縮がメリットのDOEは、マクロレンズに適していません。 キヤノンは移動量を複数のフォーカス群に分担することで、この問題を解決したようです。
実施例2はマクロ2倍と欲張った為、ややレトロ感の強いレンズ構成ですが、それでも現行品と殆ど変わらない長さは大したものですね。 今回の特許出願は超望遠レンズですが、中望遠マクロにこの特許技術を使った例も見てみたいものですね。
性能
基本的に特許文献にある収差図はINF時の設計値です。 殆どのレンズは収差変動がありますから参考程度にしかなりません。 内面反射によるフレアで解像感が低下するケースや、更に設計変更、製造・組立誤差もあるでしょう。 本当にレンズの性能を知りたい場合は、実際に発売された後で実際の製品を使ってみることです。
今後コピペ予定の上記定型文は長過ぎるので後で短くまとめよう。
今回はマクロということもあって、INFとMOD両方の収差図があるようです。 INFであれば重箱の隅を突くことも困難な程に性能が良いですね。 尤も、超望遠レンズと言えばメーカーの光学技術の結晶ですから、当然でしょう。
ところがMODとなると話が一転します。 実施例1(800/5.6)、2(400/4)、6(600/4)は、球面収差等が大きく悪化するようですね。 軸上色収差による色付きはかなり目立ちそうですし、実施例2(400/4)、6(600/4)だと像面湾曲も無視出来ないものになりそうです。
| 実施例1 800/5.6 | 実施例2 400/4 | 実施例6 600/4 | 実施例9 400/4 |
|---|---|---|---|
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左から、球面収差、非点収差、歪曲、倍率色収差。上はINF、下はMOD。
最大撮影倍率 0.7倍
ところで記事のタイトルは何故か400mmですが、これは実施例2の場合に最大撮影倍率2倍だったからです。 実用上不要の倍率と言えるので、その中間であれば性能を落とすこともないですね。 それが実施例9の400mm F4で、こちらは最大撮影倍率0.7倍。 望遠にしては多めの歪曲がウィークポイントですが、INF-MOD間での収差変動が少なく、平均的な性能は良さそうですね。
この0.7倍というのは意味があって、EF24-70mm F4L IS USMは0.7倍、伝説のAF Zoom-Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-5.6Dも1:1.32(≒0.75倍)です。 マクロと相性の悪いズームや超望遠では、0.7倍が意外に良い落とし所なのかもしれませんね。















最短撮影距離の短い超望遠レンズは野鳥撮影に威力を発揮するでしょうね。
現行のCanon800mmf5.6が6メートル。
最も最短距離の短い同クラスのレンズがライカアポテリートR800mmf5.6の3.9メートルです。
小さな小鳥を大きく写すにはこの2メートルの差はかなり大きいものでした。
これまでは中間リングを入れて撮っている人も多かったでしょうから、もし超望遠レンズで等倍マクロが可能、、、、というレンズ群が発売されたら、かなり魅力的でしょう。
また、先日えがみさんが指摘していらっしゃったように、「この領域」のピント合わせはかなり微妙です。
撮像面位相差AFで全面AFポイントが実現すれば別ですが、フォーカスロックをするため大きなレンズを右へ左へ振るのは、まず面倒だし野鳥を驚かせることにもなるので、構図を維持したままのMFは必須になると思います。
近接域でのフォーカシングストロークを多めに確保してもらえると、撮影者には有難いですね。
こうなると「ピントの山が確認しやすいフォーカシングスクリーン」の特許が効いてきますね。
by RAVEN (2012-12-20 16:18)
やはり、
AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDといった、
AF性能と、画質を両立したようなマクロレンズは、稀有なのでしょうか?
by lko (2012-12-20 22:46)
キヤノンはDOEを望遠レンズに使いたいようですが、ニコンが顕微鏡用レンズに取り入れたように、ME-P65mm F2.8のような高倍率マクロレンズに用いた方が欠点が露わにならないと思います。望遠レンズの第1群では、フレアが出ると思うのですが…。
by hi-low (2012-12-20 23:54)
> RAVEN さん
ストロークの設定はが難しいと思います。
多くのマクロレンズは近距離でMFし易い代わりに、遠景での回転角が少ないものでした。
超望遠を天体で使う方もゼロではないでしょうから、無限遠のストローク割り当ても重要です。
となると別の工夫が必要で、電子リング+カスタマイズ設定が理想なのでしょうか。
> lko さん
設計にもよりますが焦点距離が短いとレンズの繰り出し量が少なくて済むので、AFが有利になります。他メーカーは設計が古く、繰り出し式が多いですが、ニコンはIF式でこれもAF高速化に寄与しています。
有利になった分をコストダウンに注ぎ込まなかったのは、鏡筒共通化なのか、AF高速化を意図していたのか、それは想像するしかありません。
また一眼レフにおける60~70mm辺りの焦点距離は、レトロ性を強めることもなく、長焦点で発生する収差も少なく、バランスの良い落とし所です。
それでいて、無理の無い明るさとナノコーティング。
まさしく偶然の産物と言えると思います。
他のメーカーは100mm前後のマクロの開発を優先したり、明るさを欲張ったり、といった状態ですから。
> hi-low さん
ご指摘の通りフロントエレメントは問題ですね。
キヤノンはフレアの発生を防ぐ配置方法を検討していたので、それら全ての工夫の集大成は、その内に特許公開されると思っています。
by えがみ (2012-12-21 01:42)
えがみさん、おはようございます。
ストロークの問題ですが、例えば粗動と微動のツーピントリングというのは、カメラレンズでは難しいのでしょうね。
by RAVEN (2012-12-21 02:18)
粗動と微動はコーワが実現していますので、やれないことはないと思います。
KOWA PROMINAR 500mm F5.6FL
http://www.kowa-prominar.ne.jp/news/tp_556.htm
メーカーも、プロやハイアマチュアからヒアリングしていて、大小に関わらず需要を把握している筈です。
現実的な価格で提供することも重要なので、何を搭載し何を省略するか試行錯誤した結果が今のレンズではないでしょうか。
by えがみ (2012-12-22 23:08)